無停電電源装置
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無停電電源装置(むていでんでんげんそうち)とは入力電源に停電などの異常が発生しても一定時間は停電することなく電力を供給し続ける電源装置である。一定時間を超える停電には非常用発電機を併用したり、安全にコンピューターなどを終了させる機能を併用するのが一般的。
一般にUPS(Uninterruptible Power Supply)と呼ばれることが多い。交流出力のものと直流出力のものがある。日本において交流出力のものはCVCF(Constant Voltage Constant Frequency、定電圧定周波数)電源と呼ばれることがある。これは無停電電源装置が、かつては交流の安定化電源として利用されることが多かったためと言われる。
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概要
高い供給信頼性の必要な、交流入力のコンピュータ・通信機器・防災機器・制御機器・放送機器(演奏所・送信所・大規模中継局)などに用いられている。短時間の停電補償のためのものであり、30分以上の長時間の停電補償には非常用発電機と組み合わせて使用されるのが一般的である。また、短時間の電力のピークカット用にも使用可能である。
停電時の補助電源として二次電池や電気二重層キャパシタなど電池を使用するものを静止形無停電電源装置といい、フライホイールを用いたものは回転形無停電電源装置という。
大型の集中型の供給信頼性重視の高価で専門家による保守が必要なものと、パーソナルコンピュータや医療用モニタなどの分散設置用の安価で保守の手間の少ないものとがある。
またひかり電話(FTTH)は、光回線終端装置にも電源を要するため、停電時には本機がなければ通話は出来なくなる。
回路方式
常時インバータ給電方式
商用同期
商用電源を整流器で直流に変換し、二次電池をトリクル充電しながら常時商用電源に同期した交流を定電圧定周波数制御インバータで発生させるものである。
常時インバータが動作しているためその損失が大きいが、商用電源停止時の切り替え変動が少なく特に電圧低下や電力波形の乱れの許されない用途に用いられる。また、インバータや二次電池を冗長設置し1台の故障や点検時も正常に給電できるよう考慮されているものが多い。インバータの機能が完全に失われた場合は、商用電源に無瞬断で切り替えることが可能である。
商用非同期
商用電源を整流器で直流に変換し、電気二重層コンデンサをトリクル充電しながら商用電源と無関係に定電圧・定周波数の交流を定電圧定周波数制御インバータで発生させるものである。
常時インバータが動作しているためその損失が大きく、電気二重層コンデンサの容量が小さいため停電補償時間が短くインバータの機能停止時のバイパス切り替えで瞬断が発生する。しかし、制御が単純であり寿命の短い部品がなく安価である。パーソナルコンピュータや医療用モニタなどの小型の機器に用いられるようになってきている。
常時商用給電方式
電圧補償機能付き
商用電源が正常なときは商用電源を負荷に供給しながら、商用電源を整流器で直流に変換し二次電池や電気二重層コンデンサをトリクル充電しておき、商用電源電圧が乱れたときは電圧補償する。また、商用電源が停止または周波数が乱れたときには半導体スイッチにより高速に商用電源を切り離しインバータで供給するものである。
常時インバータ給電方式と比較して商用電源が正常なときはインバータが動作せずその損失が小さくなるが、商用電源停止時の切り替え変動がやや大きくなる。
- ラインインタラクティブ方式
- 負荷時タップ切り替え機能付き変圧器をバイパス回路に設置するもの。電圧制御が段階的で、質量も大きくなる。
- パワーマルチプロセッシング方式
- インバータを利用した個別の昇圧回路と降圧回路により電圧補償を行うものである。電圧調整のほか高調波流出・電源ノイズを減らすことが出来る。
- デュアルコンバージョン方式
- 負荷への供給回路に並列・直列それぞれのコンバータを接続し電圧補償を行うものである。電圧補償範囲を大きくすることができる。
オフラインスタンバイ方式
商用電源が正常なとき、バイパス回路で商用電源を負荷に供給しながら商用電源を整流器で直流に変換し二次電池や電気二重層コンデンサをトリクル充電し商用電源が停止した場合、開閉器により商用電源からインバータへ切り替えるものである。
電圧低下や電力波形の乱れがある程度許される容量の小さなものに用いられる。安価であることから、商用電源停止時に電源補償時間内に負荷機器を停止する装置と組み合わせて端末機器用に分散配置されることも多い。
なお、矩形波インバータのものは交流電動機を商用電源直結で利用する機器や電源からのノイズに弱い機器には使用できない。
新たな発想のバックアップ回路
現在の情報機器や医療機器は安定な周波数、電圧を必要とするが内部ではその多くが電源装置により直流で動いている。すなわち従来の無停電電源装置を用いたシステムでは交流→直流→交流→直流と無駄に多くの変換を行うため、損失が多く装置自体も大型となってしまう。そこで近年、直流を直接機器へ供給し内部の電源装置(DCコンバータ)で各回路の必要とする電圧に直接変換する方式が採用されている(稀に交流を必要とする回路があるが、ほとんどが冷却ファンや循環ポンプ等で瞬断や電圧や周波数の精度を必要としない回路であり常時商用給電で十分間に合う)。
たとえば携帯電話の基地局の場合、従来はAC100V給電のため局舎内の照明や換気ファン計装回路や通信機器はすべてAC100Vであったが1998年頃を境にDC48V方式に改められ、恒温用のエアコンを除きすべて直流用の機器となり大幅な小型化がなされた(凡そ1/3)。
また鉄道車両の照明でも器具自体がインバータを内蔵する器具である事から補助電源装置は直流を供給し器具損失の低減、デッドセクション通過時のちらつき(瞬断のため旧式車両はちらつくが、新しい車両では直流回路にバッテリーやキャパシタが接続され給電されるため無瞬断となりちらつかない)、さらに簡易な切替回路のみで常用の照明が停電時の非常灯としても使用できる。
関連項目
- 電源回路
- APC (企業) - 無停電電源装置の代表的な製造企業。アメリカン・パワー・コンバージョン社の略。 APCジャパン 公式HP
- YAMABISHI (企業) - 様々な無停電電源装置を製造するメーカー。
株式会社YAMABISHI 公式HP